あらすじ
その首が、日本を変えた。ひたすらに熱く切ない本格歴史長篇!
ひとりは軍人に。ひとりは利通暗殺へ。
西郷の首を発見した男と、大久保利通を暗殺した男。
2人の加賀藩士は、親友同士だった――。
「維新」とは何だったのか?
武士の世の終焉を活写した、ひたすらに熱く切ない本格歴史長篇!
幕府を中心とした開国派と、長州藩を軸とした攘夷派に分かれ、激しい戦いが繰り広げられる幕末。
百万石の雄藩・加賀藩は、中立的立場ながらも、藩内では二派の対立が激化していた。
加賀藩士の島田一郎は尊王攘夷思想に憧れ、親友の千田文次郎は、一郎の情熱に煽られながらも自分を見失わないでいた。
やがて一郎は反政府活動に傾倒し、武装蜂起を企てる。
一方、文次郎は陸軍軍人となって西南戦争に参加し、薩摩軍が隠した西郷隆盛の首を発見する。
それにより不平士族の絶望は頂点に達し、一郎らは大久保利通の暗殺を画策する……。
幕末・明治という激動の時代に翻弄された二人の青年の友情と別離。圧巻の歴史長篇!
「一つの時代が終わったのだ。もう武士の世には戻れぬ」
(KADOKAWA公式サイトより)
書籍データ
単行本: 480ページ
出版社: KADOKAWA (2017/9/29)
言語: 日本語
ISBN-10: 4041057191
ISBN-13: 978-4041057193
発売日: 2017/9/29
作者より
江戸時代末期は欧米諸国の船が次々と来航し、日本に開国要求を突き付けてくるという外圧の時代でした。日本の植民地化を虎視眈々と狙う諸外国に対し、江戸幕府は対応しきれず、言われるままに条約を締結していきます。
こうした中、「これではいけない」という志を持つ若者たちが次々と現れ、志士活動に邁進します。そして、その大半が死んでいきました。
それでも彼らの生き残りによって、明治政府は樹立されました。ところが、その恩恵に浴し、明治政府の顕官の座を独占したのは、薩摩・長州・土佐・肥前といった維新の原動力となった藩出身の志士たちで、この四藩による藩閥が明治政府を形作っていきます。
おそらく多くの方が、この四藩出身の英雄たちの物語をご存じでしょう。とくに2018年の大河ドラマは、林真理子さん原作の『西郷どん』ということもあり、西郷隆盛や大久保利通の薩摩藩に注目が集まっています。
しかし幕末から維新を懸命に生き抜いたのは、薩長土肥出身者ばかりではありません。彼らの陰で埋もれていった人々がいます。
比較的早くから朝廷側、すなわち薩長側に付き、戊辰戦争で多くの血を流した旧加賀藩士たちも、維新の恩恵を受けられなかった一団でした。彼らがどれだけ優秀なのかは、磯田道史氏の『武士の家計簿』を読めば明らかだと思いますが、百万石の大藩だけあって人材も豊富でした。しかし、一人として大臣やそれに次ぐ地位に就いた者はいません。
本書は二人の旧加賀藩士の視点で物語が進みます。一人は時代の流れに順応し、軍人となります。もう一人は時代の流れに抗うかのように政治結社を結成し、反政府活動に身を投じます。いわゆる不平士族です。
彼らは彼らなりに、日本をよくしようと幕末から維新を懸命に生き抜きました。
一方は不器用ながらも周囲の引き立てによって、軍人としての輝かしいキャリアを歩みます。もう一方は才があるゆえに現状に満足できず、それが明治政府に対する憎悪に結び付き、大久保利通を暗殺するという暴挙に出ます。
本書『西郷の首』によって私の「西郷隆盛と明治維新三部作」は完結しました。
『武士の碑』では西郷側近の村田新八の視点から、『走狗』では西郷に大恩がありながら袂を分かち大久保側に付いた川路利良の視点から、そして『西郷の首』では不遇をかこつ加賀藩士の視点から、それぞれの幕末維新と西郷隆盛を描きました。
明治維新から百五十年を迎える2018年、この三作品を世に問うことは、今を生きる作家として、この上ない喜びです。
「明治維新とは何だったのか」「西郷隆盛とは何者だったのか」という私なりの答をお読みいただき、皆さんにも一緒に考えていただきたいと思っています。